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最高裁判所第二小法廷 平成3年(オ)353号 判決 1991年9月13日

上告人

林清明

上告人

内藤敏夫

上告人

高橋敏雄

右三名訴訟代理人弁護士

高柳元

被上告人

清原元

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人高柳元の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係は、(1) 牧田良伸は、その所有に係る原判決添付目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)に抵当権を設定していた、(2) 上告人内藤は、右抵当権設定後の昭和六二年六月三〇日、牧田から本件土地を期間五年の約定で、賃借し(以下「本件短期賃貸借」という。)、原判決添付目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して本件土地を占有している、(3) その後、本件土地につき、右抵当権が実行され、同年七月二三日、競売開始決定を原因とする差押えの登記(以下「本件差押登記」という。)が経由された、(4) 上告人林は、同月三一日、上告人内藤から本件建物を賃借して本件土地を占有している、(5) 被上告人は、昭和六三年六月八日、右競売手続において本件土地を買い受けた、というのである。

原審は、右事実関係の下において、本件短期賃貸借は、その契約締結前後の事情などからして、執行障害の意図を含むものであったと認められるとし、さらに、本件短期賃貸借は平成四年六月二九日(原審の口頭弁論終結の後)に期間が満了するが、その期間満了に当たって、右上告人らが被上告人に対して種々の妨害工作をしないとの保障もなく、契約更新も予測できないとして、被上告人が本件短期賃貸借の将来の期間満了を原因としてあらかじめ上告人内藤に対し本件建物を収去して本件土地の明渡し及び上告人林に対し本件建物から退去して本件土地の明渡しを求める将来給付の訴えを適法と判断して、右請求を認容している。

原審の右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして、正当として是認することができ、これによれば、本件差押登記の後に期間が満了する本件短期賃貸借が法定更新されることはないところ、原判決の右判示は、本件短期賃貸借の意図が右のとおりであったことからして、期間満了による契約終了の際、右上告人らが本件土地を明け渡さないことが明らかであるという趣旨にほかならず、被上告人の右将来給付の訴えを認容した原判決に所論の違法はない。論旨は、右の違法をいう点を含め、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大西勝也 裁判官藤島昭 裁判官中島敏次郎 裁判官木崎良平)

上告代理人高柳元の上告理由

一 将来の給付請求について(本件事件においては期限が到来していない第一審判決主文一、についての反論となる。)

1 第一審判決は、被上告人の提起した将来の給付請求は適法であるとし、第二審もこれを支持する。その理由としては、①上告人らの各占有は執行妨害の目的であり、②契約更新の可能性がないこと、③期間満了にあたり被上告人の明渡請求に対し、上告人らが妨害工作をなさないという保障がないことを指摘する。

そもそも将来の給付の請求は例外として認められるものである。即ち、口頭弁論終結時までに履行すべき状態にならない給付請求権を主張するものであるから、予めこの請求として給付判決を得ておく必要のある場合にのみ許されるものである。例えば定期行為(民法五四二条)、あるいは扶養権の請求などである。これは定期に履行がないと債務の本旨に適った給付にならない、あるいは、扶養権の遅滞は生活を維持するの上で重大な支障が生ずるからである。

2 ところが本件の場合は右のような必要性は存在しないと言うべきである。短期賃貸借の更新については借地法四条、六条が適用されないと解釈されている。このことは不合理ではないが、しかし、賃貸人、賃借人の合意に基づく契約更新はもち論否定されない。たとえ「短期」賃貸借であってもその契約が存続している限り当事者は対等であるべきである。ところがもし賃貸人が将来の明渡内容の確定判決を取得しているとなると不当に賃貸人の力が大きくなってしまう。これは賃借人保護(契約継続中であればたとえ期限が定められていても、保護されるのは当然であろう)の思想と相容れないものである。賃貸人に更新拒絶権が認められ、あるいは法定更新の制度が適用にならないとしても、このことから予め賃貸人に将来の給付請求権を与える必要はない。

3 次に上告人らの占有は、執行妨害の目的達成の手段であり、将来も明渡しの妨害をしない保障はないと判示する。その理由としては、上告人林と同内藤が古くからの友人であり親しくしていること、賃料が低廉であり使用占有状況も合理的でないことを指摘している。上告人林、同内藤は本件各土地、建物を必要があって賃借したものであり(林繊維の倉庫として必要)、決して執行妨害の手段としたわけではない。この様なトラブルが続いているので同人らの占有、利用状況は一〇〇パーセントの有効完全な利用というわけにはいかないだけである。第一審判決は上告人らの占有が何故執行妨害の手段となっているかとの点について客観的に理解しうる説明をしていない。又将来執行の「妨害工作をなさないとの保証もない」と極めて消極的に指摘しているのにすぎない。第二審判決も同様であり何ら合理的な説明をしていない。例外である将来の給付を認容するのにはもっと差し迫った必要性が不可欠であるのにもかかわらず、この点何等考慮していない。

4 ところで競売手続が開始されたあと上告人林は本件土地建物を、倉庫として利用する為に、できうれば競落したいと考えて、常日頃被上告人に相談しており、被上告人のアドバイスをうけて入札申込価格を決めたのである。被上告人は上告人の本件土地建物利用目的と意思を熟知していた。ところが、被上告人は上告人林の手の内を全部知っていることを奇貨として、上告人林を出し抜いて競落してしまったのが実情である。一般的に短期賃貸借の借主は競落人に対して民法六〇三条を越えては賃借権の主張を対抗できないとされるが、このような場合はむしろ競落人である被上告人が競売という手段を悪用して、上告人林に不当な損害を与えたものであり、損害賠償義務が発生することはもち論、将来の給付請求を求める資格はない(クリーンハンドの原則に反する)。それ以上に、かような場合は原則として契約の更新を拒めないとも解することができる(権利の乱用)。

二 競落人に対抗しうる短期賃貸借の起算点について(第一審判決主文一、三、の関係)

第一審判決は、競落人である被上告人に対抗しうる短期賃貸借の起算点をそれぞれ契約時としているが、これは競落時と解釈すべきである。

本件各不動産について、被上告人が競落したのが昭和六三年六月八日であるので、第一審判決目録(一)記載の土地については平成五年六月八日まで、目録(三)、(四)の建物については平成三年六月八日まで、それぞれ短期賃貸借の契約期間が継続することとなる。もっとも目録(三)の建物については賃料の支払いがなされていないことから契約解除されているので目録(一)の土地と目録(四)の建物について意味があることとなる。

競落人に対抗しうる短期の賃貸借の期間の起算点を競落時とすることにより、用益権、特に賃借人の保護が図られる。これは競落により画一的に終期が決定され、賃借人にとって不意うちがなくなる一方競落しようとする者も不測の損害を被ることもないからである。

本件について将来の給付は認められないと解するが、仮りに肯定されたとしても契約終了時点は右のとおり解すべきである。

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